今、アウディはどのくらい支持されていて、ポジショニングとしてはどの辺にあるのか。
ちょっと気になって調べてみました。
「支持」という言葉は定義が難しいのですが、もっとも端的な指標として、今回は販売台数を調べています。
「いいクルマ」となるとその基準は個人ごとにまちまちで、「好きなクルマ」となれば一般的な定義そのものが不可能です。
販売台数は単なる一側面に過ぎませんが、少なくとも「"自分のクルマ"として選ばれた数」ということで、一定の意味を持つものと考えています。
まずはJAIA(日本自動車輸入組合:http://www.jaia-jp.org/)の統計から。
日本に正規輸入されている全ブランドを並べると煩雑になりすぎてしまうので、ドイツ車とレクサスだけを相手に、ここ10年の数字をグラフ化してみました。数字は年間販売台数です。
(データソースは上記JAIAの統計より。グラフは私が手組みしました。最近のEXCELはホントにスゴいです)
ご覧の通り、2016年数値は輸入車ブランドの中ではメルセデス・ベンツ、BMW、VWに続いての第4位。
順位的には印象通りです。
ここ直近の推移を見ると、2015年の米国に端を発したディーゼルエンジン排出規制不正問題で大きく信頼を失ったVWが、2016年にはBMWの後塵をも拝することになりました。
同グループであるアウディも、2015-16は2年連続のマイナス成長となっていますが、これはディーゼル問題よりもむしろニューモデル不在の影響が大きかったのではないでしょうか。
感覚的には、日本においてはVWとアウディの関係性は一般にはそこまで知れ渡ってはいないように思うのです。
逆にここ数年急激に販売を伸ばしたのが王者メルセデス・ベンツ。
MFAアーキテクチャ各車、Cクラスの大ヒット、SUVバリエーションの矢継ぎ早の投入など、ラインナップの拡充が見事に功を奏した感があります。
BMWも堅調に推移しているのですが、メルセデスと比較するとやや見劣りの否めないところ。
しかしながらその代わり、MINIも大きく伸ばしてきていますので、陣営としては盤石と言えるかもしれません。
アウディはうかうかしているとすぐにもMINIに抜かれかねない勢いです。
さて、もう少し遡ってロングスパンで見てみます。
ここ10年でのもっとも大きな特異点は、何といっても2008年のリーマンショック。
輸入ブランド各社がその影響をもろに受けたことが如実に表れています。
メルセデス・ベンツとBMWの2009年販売台数は、その一昨年(2007年)対比で何とほぼ4割減。壊滅的です。
そんな中、なぜかアウディはほとんど影響を受けていません。
ちょっと理由がよくわからなかったので、歴史を紐解いてみました。
すると、リーマンショック前夜、2005年のあるモデルのデビューに目を引かれました。
ワルテル・デ・シルヴァ氏の下、和田智さんがスタイリングした3代目のA6、C6系。
初めてシングルフレームグリルが与えられたクルマです。
このC6系A6のデビュー以降、アウディの各モデルは次々にシングルフレームグリルを纏っていくことになります。
つまりリーマンショックはアウディのデザインアイコンがシングルフレームグリルへと移行し、現在のアウディのブランドイメージが形成されていく時期と重なっていたと言えそうです。
そう考えれば、リーマンショックの影響とブランド向上の勢いが相殺されて、ジャンプアップすべきところが常識的な成長にとどまった……と言えるのかもしれません。
あくまで個人的な憶測にすぎませんが。
リーマンショックは輸入車市場にも確かに大きな影を落としました。
しかし近年それもようやく一段落し、ショック以前を越えての成長域に到達してきています。
では危機を越えてブランド力の支持度はどう変わったのでしょう。
あるいは変わっていないのでしょうか。
10年ごとの変化を見てみます。
アウディのここ10年、2006年から2016年にかけて販売台数は+90%、ほぼ倍増しました。
その前の10年、1996年から2006年の成長は+50%ですから、やはりこの10年での支持の高まりは確かなものと言えそうです。
BMWは1996年からの10年間で+35%の成長を見せ、2006年時点ではメルセデス・ベンツと拮抗するまでになりましたが、この10年は横ばい。
というより、リーマンショックのダメージから堅調に立ち上がったところ、と言えるかもしれません。
VWはピークの2014年で見ると67,438台で、2006年と比較して+24%の成長を見せていました。
しかし直近のディーゼル規制不正問題で大きく数字を落としてしまっています。
直近の乱高下はあるにせよ、1996年時点でも5万台以上の販売実績を誇っていたことを考えれば、この20年、ほぼ同等の販売ボリュームで、トップランナーとして推移してきたと言えそうです。
やはり目立つのはメルセデス・ベンツで、この10年で36%の成長を果たしています。
支持が広がった証ですが、販売台数のこれだけの伸びはやはりラインナップの拡充が大きいのではないかと思います。
これをもって、もともとの「高級車」ブランドの毀損であると見る向きもあるのかもしれませんが、JAIAの統計情報「外国メーカー車モデル別トップ20の推移」を見ると、EクラスやCクラスは変わらず常連であり、必ずしもMFAプラットフォーム車だけが成長を牽引しているとは言えなさそうです。
「ブランドに磨きがかかり、支持層が広がった」と解釈したいところです。
こうして「ここ10年の成長性」を改めて振り返ってみると、販売台数が倍増したアウディの躍進は圧倒的です。
ただ、2016年に至っても、BMWとは1.8倍、メルセデス・ベンツとは2.4倍の開きがあり、まだまだ「背中が見えてきた」というには彼我の差は大きいようです。
当初私自身が抱いていた、「ブランドイメージの向上は著しいが、メルセデスとBMWの双璧にはいまだ及ばない」という印象が裏付けられる結果となりました。
予想を超えて支持を伸ばしていることが分かったブランドもありました。
まずはMINI。
アウディに迫っている実数も驚きではあったのですが、過去を振り返っても常に横並びと言っていい推移を見せています。つまり、成長度もアウディ同等。2006年から2016年の成長率は実に+86%に及びます。
商品のキャラクターがはっきりしているのがブランド上は有利にも働きますが、裏を返せば強すぎる個性はファン層を選んでしまう諸刃の剣ですから、ここは素直にブランディングの巧みさを賞賛すべきではないかと思います。
そしてもう一つ。
実は個人的にはMINIよりはるかに大きな衝撃を受けました。
レクサスです。
2016年実績では5万台を超え、なんとBMWをも抜き去っています。
グローバルによく比較される「プレミアム・セグメント」で言うなら、メルセデス・ベンツに次いで堂々の2位。
自分自身の認識の浅薄さを恥じるばかりですが、正直国内においてここまでレクサスが支持を伸ばしているとは思っていませんでした。
もっともレクサスの場合、ここに並べた他のブランドよりも社用車として法人所有されるケースははるかに多いでしょうから、純粋に「個人が自分のクルマとして選ぶ」支持という側面からは外れるところも多少はあろうかと思います。
しかし、それは以前から同じことなわけで、販売台数の急激な成長の主たる理由にはなり得ないでしょう。
2006年からの10年成長率は実に+68%。アウディやMINIには及ばないものの、母数差を考えれば驚異的です。
推移を追ってみると、リーマンショックの影響も多少見られますが、VW、メルセデス・ベンツ、BMWに比べれば限定的。回復基調に乗った後、2011年に大きく伸長し、この時はBMWとメルセデス・ベンツの両社を抜き去ってプレミアム・セグメントの首位を奪っています。
2011年、調べてみるとCT200hが発売になった年でした。
エントリーモデルを用意して間口を広げ、その翌年の4代目GSで採用したスピンドル・グリルを全モデルに展開してCIを確立、もともと得意だったSUVのブームに乗って、着実に地場を固めてきた……。
それがここ10年のレクサスの姿かと思います。
2, 3年前、ディーラーの営業さんから、「動力性能はBMWを、内外装の製造品質はアウディを」ベンチマークしていると聞いたことがあります。「頑張っているが、まだまだ」だとも。
足らざるを自覚しつつ、地道に「カイゼン」を続け、「もっといいクルマを作ろう」としてきた結果が、今のレクサスのポジションを形作っているのかもしれません。
それは、私の目には2つの双璧に挑んできたアウディの姿と重なるのです。
先日、デビュー時に見せてもらいに行った、レクサス渾身のフラッグシップスポーツ、LC。
フロントマスクの好き好きはあるとは思いますが、帯びたオーラは明らかに只者ではなく、一目で高い製造品質と技術水準をストレートに伝えてくるものでした。純粋に美しいと思いました。
これも個人的な印象ですが、もともとディーラーのクォリティは他の追随を許さないレベルです。
見て、触って、乗って、走らせて、ジャーマン・スリーと本当に遜色ないところにまでクルマが至ったならば……その時こそ私の舶来コンプレックスを打ち破るだけの所有満足を与えてくれることになるでしょう。
いつか、いずれ遠くない日にレクサスに乗る日が来るのでしょうか。
さて、何だか最後にレクサス評になってしまいましたがそもそものきっかけはアウディの現況を知りたいところにありました。
国内の現況数値はこうしてざっと見できたところで、次回は海外ではどうなのかを探ってみたいと思います。
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ちょっと気になって調べてみました。
「支持」という言葉は定義が難しいのですが、もっとも端的な指標として、今回は販売台数を調べています。
「いいクルマ」となるとその基準は個人ごとにまちまちで、「好きなクルマ」となれば一般的な定義そのものが不可能です。
販売台数は単なる一側面に過ぎませんが、少なくとも「"自分のクルマ"として選ばれた数」ということで、一定の意味を持つものと考えています。
まずはJAIA(日本自動車輸入組合:http://www.jaia-jp.org/)の統計から。
日本に正規輸入されている全ブランドを並べると煩雑になりすぎてしまうので、ドイツ車とレクサスだけを相手に、ここ10年の数字をグラフ化してみました。数字は年間販売台数です。
(データソースは上記JAIAの統計より。グラフは私が手組みしました。最近のEXCELはホントにスゴいです)
ご覧の通り、2016年数値は輸入車ブランドの中ではメルセデス・ベンツ、BMW、VWに続いての第4位。
順位的には印象通りです。
ここ直近の推移を見ると、2015年の米国に端を発したディーゼルエンジン排出規制不正問題で大きく信頼を失ったVWが、2016年にはBMWの後塵をも拝することになりました。
同グループであるアウディも、2015-16は2年連続のマイナス成長となっていますが、これはディーゼル問題よりもむしろニューモデル不在の影響が大きかったのではないでしょうか。
感覚的には、日本においてはVWとアウディの関係性は一般にはそこまで知れ渡ってはいないように思うのです。
逆にここ数年急激に販売を伸ばしたのが王者メルセデス・ベンツ。
MFAアーキテクチャ各車、Cクラスの大ヒット、SUVバリエーションの矢継ぎ早の投入など、ラインナップの拡充が見事に功を奏した感があります。
BMWも堅調に推移しているのですが、メルセデスと比較するとやや見劣りの否めないところ。
しかしながらその代わり、MINIも大きく伸ばしてきていますので、陣営としては盤石と言えるかもしれません。
アウディはうかうかしているとすぐにもMINIに抜かれかねない勢いです。
さて、もう少し遡ってロングスパンで見てみます。
ここ10年でのもっとも大きな特異点は、何といっても2008年のリーマンショック。
輸入ブランド各社がその影響をもろに受けたことが如実に表れています。
メルセデス・ベンツとBMWの2009年販売台数は、その一昨年(2007年)対比で何とほぼ4割減。壊滅的です。
そんな中、なぜかアウディはほとんど影響を受けていません。
ちょっと理由がよくわからなかったので、歴史を紐解いてみました。
すると、リーマンショック前夜、2005年のあるモデルのデビューに目を引かれました。
ワルテル・デ・シルヴァ氏の下、和田智さんがスタイリングした3代目のA6、C6系。
初めてシングルフレームグリルが与えられたクルマです。
このC6系A6のデビュー以降、アウディの各モデルは次々にシングルフレームグリルを纏っていくことになります。
つまりリーマンショックはアウディのデザインアイコンがシングルフレームグリルへと移行し、現在のアウディのブランドイメージが形成されていく時期と重なっていたと言えそうです。
そう考えれば、リーマンショックの影響とブランド向上の勢いが相殺されて、ジャンプアップすべきところが常識的な成長にとどまった……と言えるのかもしれません。
あくまで個人的な憶測にすぎませんが。
リーマンショックは輸入車市場にも確かに大きな影を落としました。
しかし近年それもようやく一段落し、ショック以前を越えての成長域に到達してきています。
では危機を越えてブランド力の支持度はどう変わったのでしょう。
あるいは変わっていないのでしょうか。
10年ごとの変化を見てみます。
アウディのここ10年、2006年から2016年にかけて販売台数は+90%、ほぼ倍増しました。
その前の10年、1996年から2006年の成長は+50%ですから、やはりこの10年での支持の高まりは確かなものと言えそうです。
BMWは1996年からの10年間で+35%の成長を見せ、2006年時点ではメルセデス・ベンツと拮抗するまでになりましたが、この10年は横ばい。
というより、リーマンショックのダメージから堅調に立ち上がったところ、と言えるかもしれません。
VWはピークの2014年で見ると67,438台で、2006年と比較して+24%の成長を見せていました。
しかし直近のディーゼル規制不正問題で大きく数字を落としてしまっています。
直近の乱高下はあるにせよ、1996年時点でも5万台以上の販売実績を誇っていたことを考えれば、この20年、ほぼ同等の販売ボリュームで、トップランナーとして推移してきたと言えそうです。
やはり目立つのはメルセデス・ベンツで、この10年で36%の成長を果たしています。
支持が広がった証ですが、販売台数のこれだけの伸びはやはりラインナップの拡充が大きいのではないかと思います。
これをもって、もともとの「高級車」ブランドの毀損であると見る向きもあるのかもしれませんが、JAIAの統計情報「外国メーカー車モデル別トップ20の推移」を見ると、EクラスやCクラスは変わらず常連であり、必ずしもMFAプラットフォーム車だけが成長を牽引しているとは言えなさそうです。
「ブランドに磨きがかかり、支持層が広がった」と解釈したいところです。
こうして「ここ10年の成長性」を改めて振り返ってみると、販売台数が倍増したアウディの躍進は圧倒的です。
ただ、2016年に至っても、BMWとは1.8倍、メルセデス・ベンツとは2.4倍の開きがあり、まだまだ「背中が見えてきた」というには彼我の差は大きいようです。
当初私自身が抱いていた、「ブランドイメージの向上は著しいが、メルセデスとBMWの双璧にはいまだ及ばない」という印象が裏付けられる結果となりました。
予想を超えて支持を伸ばしていることが分かったブランドもありました。
まずはMINI。
アウディに迫っている実数も驚きではあったのですが、過去を振り返っても常に横並びと言っていい推移を見せています。つまり、成長度もアウディ同等。2006年から2016年の成長率は実に+86%に及びます。
商品のキャラクターがはっきりしているのがブランド上は有利にも働きますが、裏を返せば強すぎる個性はファン層を選んでしまう諸刃の剣ですから、ここは素直にブランディングの巧みさを賞賛すべきではないかと思います。
そしてもう一つ。
実は個人的にはMINIよりはるかに大きな衝撃を受けました。
レクサスです。
2016年実績では5万台を超え、なんとBMWをも抜き去っています。
グローバルによく比較される「プレミアム・セグメント」で言うなら、メルセデス・ベンツに次いで堂々の2位。
自分自身の認識の浅薄さを恥じるばかりですが、正直国内においてここまでレクサスが支持を伸ばしているとは思っていませんでした。
もっともレクサスの場合、ここに並べた他のブランドよりも社用車として法人所有されるケースははるかに多いでしょうから、純粋に「個人が自分のクルマとして選ぶ」支持という側面からは外れるところも多少はあろうかと思います。
しかし、それは以前から同じことなわけで、販売台数の急激な成長の主たる理由にはなり得ないでしょう。
2006年からの10年成長率は実に+68%。アウディやMINIには及ばないものの、母数差を考えれば驚異的です。
推移を追ってみると、リーマンショックの影響も多少見られますが、VW、メルセデス・ベンツ、BMWに比べれば限定的。回復基調に乗った後、2011年に大きく伸長し、この時はBMWとメルセデス・ベンツの両社を抜き去ってプレミアム・セグメントの首位を奪っています。
2011年、調べてみるとCT200hが発売になった年でした。
エントリーモデルを用意して間口を広げ、その翌年の4代目GSで採用したスピンドル・グリルを全モデルに展開してCIを確立、もともと得意だったSUVのブームに乗って、着実に地場を固めてきた……。
それがここ10年のレクサスの姿かと思います。
2, 3年前、ディーラーの営業さんから、「動力性能はBMWを、内外装の製造品質はアウディを」ベンチマークしていると聞いたことがあります。「頑張っているが、まだまだ」だとも。
足らざるを自覚しつつ、地道に「カイゼン」を続け、「もっといいクルマを作ろう」としてきた結果が、今のレクサスのポジションを形作っているのかもしれません。
それは、私の目には2つの双璧に挑んできたアウディの姿と重なるのです。
先日、デビュー時に見せてもらいに行った、レクサス渾身のフラッグシップスポーツ、LC。
フロントマスクの好き好きはあるとは思いますが、帯びたオーラは明らかに只者ではなく、一目で高い製造品質と技術水準をストレートに伝えてくるものでした。純粋に美しいと思いました。
これも個人的な印象ですが、もともとディーラーのクォリティは他の追随を許さないレベルです。
見て、触って、乗って、走らせて、ジャーマン・スリーと本当に遜色ないところにまでクルマが至ったならば……その時こそ私の舶来コンプレックスを打ち破るだけの所有満足を与えてくれることになるでしょう。
いつか、いずれ遠くない日にレクサスに乗る日が来るのでしょうか。
さて、何だか最後にレクサス評になってしまいましたがそもそものきっかけはアウディの現況を知りたいところにありました。
国内の現況数値はこうしてざっと見できたところで、次回は海外ではどうなのかを探ってみたいと思います。
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